大正ロマンで非日常を~憧れのあの時代を旅するブログ~

華やかで儚い大正時代を味わいませんか。

*

小杉天外 魔風恋風

   

 

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明治時代後期の女学生「萩原初野」を中心とした恋愛小説です。

ただし、思っていたようなラブロマンスではなく

“魔”と入っているようになかなかドロドロした内容だったように感じました。

 

前篇、後編と別れていて読みごたえのある作品でした。

美貌の女学生初野をはじめ、その初野を姉様と慕う「夏本芳江」、

芳江の許嫁の「夏本東吾」、初野の妹である「萩原波」、

初野の下宿先のおかみさん、資産家の芸術家「殿井恭一」など

個性豊かな登場人物が登場します。

さて誰が誰と結ばれるのか・・・

 

ものすごく簡単にあらすじを解説すると、

卒業試験を目前に控えた初野だが生活に困窮していて

勉強はおろかその日の生活もやっとになってしまう。

幼い妹も養わないといけない境遇でピンチだが

誰の助けも借りずに自力で生きて行くという

女性の芯の強さが感じられるストーリーになっています。

(その強さが良いか悪いかは別にして。)

 

 

この小説のキーポイントは「お金」と「恋」です。

大正ロマンの様な書生と女給、または華族同士といった甘酸っぱいものではなく、

それぞれの登場人物がそれぞれ打算を持っている

人間の本質や二面性、利己的な部分が良く感じられる恋愛劇に感じました。

 

結論から言うと誰も幸せにならないです。

(小説が終わる時点では。)

初野がもう少し他人を頼っていたら、頼ったとしてもっとそれが早かったら、

自分の美しさをもっと意識していたら、そもそも初野がお金に困っていなかったらなど

分岐点はいくらでもあったんです。

 

昭和後期や大正時代の作品はどうもハッピーエンドでおわる物語が少ないですね~。

(私が読んだ作品がそうだったのかもしれないし、それはそれで魅力的なんですが。)

でもたまにはキレイに結ばれてほしいじゃないですか。

今回も例によって報われぬ恋となってしまいました(;-;)

 

出てくる人たちは皆さん悪い人たちではないんです。

(自宅で初野を襲った夏本伯爵以外は!)

ただ皆さん自分の思う理想を追求しようとしている。

もっというとわが身ばかりを大切にしようと考えている。

 

初野と殿井をくっつけようとするおかみさんしかり、

初野と東吾の噂から世間体ばかり気にする夏本婦人しかり、

許嫁である芳江と初野に良いカッコばかりする東吾しかり。

他人や妹思いの初野ですらお金を巡って最愛の妹と袂を別れる始末。

 

本当の意味で他人の事を一番に考えていたのは

なりふり構わず援助を初野に申し出た芳江と

初野が亡くなってからも妹の波の面倒をみた殿井ぐらいではないでしょうか。

このあたりがお金のある余裕というものをイヤでも感じさせるんです。

 

一度は許嫁の芳江を捨てて初野と契りを交わしたのに

結局芳江と結婚する道を選んだ東吾についても

世間体や将来の打算で行動したと邪推してしまいます。

 

実は初野も東吾も前からお互いの事が好きだったということが発覚し、

一途で友達思いの芳江が不憫でなりません。どうしても肩入れしてしまいます。

それにしても芳江は初野に東吾を取られるという場合は想定していなかったんだろうか。

(いくら慕っているとはいえキレイな女性と親しかったら

普通は危機感を感じませんか?

許嫁だったから安心しきっていたのかな~?)

 

殿井の場合は下心ありきなんでまぁピエロになるのは当然かなぁと。

初野の死後も波を養っているくらいだからいい人には間違いないんですけどね。

普通ならあそこまでしてもらっていたら、どんな女性でも落ちますよ。

 

後編の序盤(全体から見て中盤)当りで初野に脚気(衝心)という診断がくだされます。

病気を患った時点で、あーこれはよろしくない展開だなと思ったわけです。

天気が悪くなるような、カラスが鳴く様な、そんな感じです。

想像通り一向に良くならず、ラストのシーンでは

芳江と東吾に看取られて息絶えます。

うーん、初野には幸せになってほしかったけど(^-^;)

 

車夫や洋燈(ランプ)、汽船といった文明開化を思わせる当時の風俗や、

警戒(コーシアス)、妬る(エンビる)、犯られた(バイオられた)という

当て字でカナを当てられている文体が当時の様子を感じさせてくれます。

洋館の中でこういった会話がされるのはやっぱりロマンがありますね。

友達も様(さん)付けだし。

 

 

色々と自分なりに感想を書いてみましたが、明治時代のお話という視点よりも

男女の心情の行き違いなどで複雑に絡み合う恋愛劇という点が

単純に面白かったです。

 

特に大正時代になると一般庶民にも自由恋愛が広まるようになりますが

それでも許嫁制度や出自、階級から制限される場合も多いです。

その中で結ばれるかどうか分からないギリギリの所を

これからも小説を通してもっと感じていきたいです。

 

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